【中国トレンド】若者の心を掴むゲーム、マーダーミステリーとは

前記事で「沉浸式」について紹介しましたが、エンターテインメントのジャンルで沉浸式と言えばまず例に挙がるのが「マーダーミステリー」。中国語で「劇本殺(剧本杀)」、中国で独自の発展を遂げているゲームについてご紹介します。

マーダーミステリーとは

マーダーミステリー(Murder Mystery)とは、殺人事件を題材にした推理ゲームです。参加者全員に台本や役割が与えられ、その台本にそって役柄を演じながら、犯人を探していきます。事件の容疑者の1人になりきって、その世界に入り込み、推理や物語を楽しむことができるのです。基本的には対面型のアナログなゲームですが、オンライン方式のシナリオも普及しつつあります。殺人事件を題材にしたものだけではなく、人が死なないシナリオや、脱出ゲームの要素を加えたものなどそのバリエーションも日々増え続けています。

起源は20世紀初頭の欧米で楽しまれたディナーパーティーゲームだと言われています。その当時は服装の指定があったり、俳優を招いたりと劇の要素が強いものでした。それが中国で独自の進化を遂げ、ボードゲームのジャンルの1つとして確立されました。日本でも遊ばれるようになっていますが、中国語を翻訳したものや、中国の形式を踏襲したものが多いです。

なぜ人気なのか?

人気の理由はなんと言っても唯一無二の物語性です。
一度遊ぶと全ての秘密が明らかになってしまうため、同じシナリオは一生に一度しか遊ぶことができません。また、プレーヤーの行動によって話の展開やエンディングが変化するので、その瞬間、そのメンバーでしか紡がれない物語となります。

さらに物語の世界に入り込む体験も大きな魅力の一つです
謎解き要素や、互いに疑い合うという現実ではありえない状況に身を置き、世界に一つだけの物語を当事者として作品を味わうことができる没入感、その物語の中で役を演じる体験が醍醐味だと言えます。

なぜ中国の若者にヒットしたのか?

中国で流行し始めた歴史は長くなく、2016年にテレビで「明星大探偵」と言う芸能人による推理リアルショーが放映され話題となり、注目が集まりました。2018年から徐々にネット上でマーダーミステリーが人気となり、2019年に対面式のマーダーミステリー専門店が北京、上海、西安、成都、杭州などの各都市で爆発的に増えました。コロナ禍においてもその勢いは衰えることなく、2021年時点で中国国内に4万5千店舗を超える専門店が営業しています。

欧米で発祥したゲームが中国で独自の発展を遂げた理由としては、若者が求めていた癒しと交流がそこにあるからだと言われています。
主に95後(1995年以降に生まれた世代のこと)に人気があるマーダーミステリーですが、この世代は996(朝9時から夜9時まで、週6日間働く)と言う働き方が問題になるなど働き詰めの人も多く、毎日の仕事のストレスに晒されています。そして日々インターネットの情報にも晒され、平面的なエンターテインメントでは飽き足りない95後世代

マーダーミステリーでは、ゲームの中で他の人間を演じ物語に没入することや、思考や推理を通して好奇心が満たされることで仕事のストレスを忘れリラックスすることができます。彼らは映画鑑賞や小説の閲読からは得られない、上記のような多面的な体験を通して、やっとリフレッシュすることができるのです。

一方でインターネットの発展により多くの人が自分を「社恐」だと感じています。これは日本語で言う「コミュ障」に類似する言葉で、インターネットで交流することが増え、新たに人と出会う機会が減ったことで現実のコミュニケーションが苦手だと感じる若者が増えているのです。

中国のマーダーミステリーをプレーした人に話を聞くと、新しい友達ができた、と言う人が多くいます。マーダーミステリーでは、畏まって挨拶をしたり、相手に質問をしたりせずともゲームを通して人となりを窺い知ることができます。苦手だけど、人と新たに関わりたい。そんな望みを叶えてくれる場所でもあるのですね。

これからも伸びる市場

中泰証券の研究報告書によれば、2023年の中国国内のマーダーミステリー市場は566.8億元に到達する予想。まだまだ成長の余地がありそうなマーダーミステリー。一度あなたも体験してみては?