HSK高級(5・6級)のリスニング攻略法
HSK(汉语水平考试)とは中国政府認定の中国語検定であり、
中国語以外の言語を母国語とする外国人を対象に、中国語での実際のコミュニケーション能力の測定を行うことを主眼としているために実践的な資格とされています。
そのような試験だけに、日本国内の他の中国語関連の試験、例えば中国語検定試験やTECC(中国語コミュニケーション能力検定)などに比べて、
リスニング問題はスピードも速く、口語的であったりして難解であると感じる人が多いようです。
実際、HSKの高級である5級や6級のリスニング問題は中国語検定の最高級である準1級や1級よりもスピードが速く、難しい傾向があります。
おまけにリスニング問題の音声は一回しか流れません。
しかし、5級を経て6級に合格、晴れて中国語の黒帯となるにはこのリスニング問題を制することが最も肝要なのです。
本稿ではそんな最も厄介で重要なHSK6級のリスニング問題について、実際に出題された問題を掲載し、「本番に向けてどのような準備が必要か?」も含めて解説します。
HSK高級のリスニング学習
5級や6級のリスニング力向上のためには参考書では力不足です。
私が普段の学習で皆さんにおすすめしたいリスニング力向上方法は、YouTubeなどの動画サイトを使った学習法です。
ドラマでもドキュメンタリーでも、自分の興味のあるものでよいのです。
普段の学習で中国のTV番組などの動画を見ましょう。
一回目で問題なく聞き取れれば、もう5級や6級のリスニングごときもらったも同然ですが、
口語やくだけた表現があり、スピードも速かったりして聞き取れないことが多いはずです。
しかし、たいていの中国のTV番組や動画は字幕がついています。
最初に聞いてみて、全く聞き取れなかったらその字幕の文章の意味を調べて完全に把握してから、もう一度その部分を再生し、
動画の中のスピーカーと同じ発音で、同じスピードで話すようにしてみて下さい。
これは、言語を文字情報ではなく音声情報として脳内に刷り込む「シャドウイング」という手法です。
この音声情報の蓄積こそがリスニング力向上には必要なのです。
音声情報は自分もスピーカーと同じスピードと発音で話せなければ脳内に残りません。
スピーカーと同じように話せるようになるまで何度もやってください。
紙に書きながらやるとより効果的で、手を動かすことはその文章をより音声情報として脳内に記憶しやすくします。
むろん、最初は舌がもつれてうまくいきません。
それは普段使わない口の筋肉を使うからそうなるのです。
筋肉は使えば鍛えられるもの、何回もこなしていけば必ずスムーズに発音できるようになります。
この動画サイトを使ったシャドウイングによるリスニング学習を行えば、HSK高級のリスニング問題に十分対応できるようになるでしょう。
また、リスニング力の向上だけでなく実際に使われている生きた中国語を身に着けることにも大いに役立ちます。
リスニング問題の形式
公式的に、HSK5級は2500語程度の常用単語と文法知識を習得している方を対象とし、「中国語の新聞や雑誌が読めるだけでなく、中国の映画やテレビも観賞でき、中国語でスピーチすることができる」ことが求められ、日常中国語の応用能力が問われます。
HSK6級は5000語程度の常用単語と文法知識を習得している方を対象とし、「中国語の音声情報や文字情報を不自由なく理解することができ、自分の意見や見解を流暢な中国語で口頭または書面にて表現することができる」ことが求められます。
すなわち、どちらの級も合格には中国語がしゃべれるとみなされるくらいの能力を有している必要があるため、そのリスニング問題の難易度もおおよそ察しがつくことでしょう。
30語未満程度の短文ならば聞き取れるという中級のレベルでは厳しいということです。
百聞は一見に如かず。
本稿では最高級である6級の実際のリスニング問題を例にとり、その解説と対策を論じていきましょう。
リスニング問題の始まり
まずは音楽が鳴り始め、
中国語で「大家好!欢迎参加 HSK(六级)考试(皆さんこんにちはHSK6級試験にようこそ)」が三回繰り返され、
次いで、同じく中国語で「HSK(六级)听力考试分三部分,共50 题。请大家注意,听力考试现在开始(HSK6級リスニング試験は三つの部分に分かれ、計50問です。これから試験を開始します)」とアナウンスされます。
以降も同様にすべて中国語です。
ちなみに6級のリスニング問題は50問で、時間は約35分間、その後に5分間の解答記入時間が設けられます
何をどう答えればよいかは問題用紙に一切記載されていません。
ですから最初に設問が何であるかを知っておかないと、それだけで貴重な時間を使って頭をひねってしまうことになりかねません。
それに5級も6級も、4級まではあった答え方の例がなく、スピーカーはいきなり設問から入るのです。
以下にその設問を具体的に解説いたします。
第一部分 文の内容に関する問題
音声部分
短文が放送されますので、その内容と一致するものを4つの選択肢から選んでください。(1-15)
「第 1-15 题:请选出与所听内容一致的一项(第1-15問:聞いた内容と一致するものを選んでください)」と放送された後に短文が読まれます。
一个年轻人坐在公园的长椅上休息,有个小孩儿站在他旁边很久,一直不走。年轻人问:“小朋友,你为什么站在这里不走,有什么事儿吗?”小孩儿说:“这个椅子刚刷了油漆,我想看看你站起来会是什么样子。”
上が実際の音声ですが、第一部分は短文とはいえ結構長めです。
1問目はHSKではおなじみ「笑话」問題のようですね。
最初にスピーカーが言ったように、この短文の音声の内容と一致するものを問題用紙の4つの選択肢から選べという問題のため、
短文を読み終わった後に何らかの質問がされるわけではありませんので注意してください。
解答用紙の問題部分
一問目の選択肢は以下のとおりです。
- A 年轻人在睡觉
- B 椅子是小孩的
- C 小孩想坐那个椅子
- D 椅子上刚刷了油漆
1問目は事前に、この上記選択肢を見ておいて音声を聞けば、
「D 椅子上刚刷了油漆」が正解だと気づく確率は高くなります。
以下も同じ要領で解答します。
傾向と対策
リスニングの音声を聞く前に、問題用紙に記載の選択肢を見てどんなことをスピーカーが話すのか大体のアタリをつけるのは必須です。
しかしそれもそれなりのリスニング力がなければなりません。
そのリスニング力をつけるための方法ですが、すでにHSK高級に挑もうという方はある程度会得しておられることとは思いますが、
あえて言わせていただけるならば、参考書ではなく生の中国語の音声を聞き続ける必要があります。
前章でも申し上げたとおり、YouTubeなどの動画サイトで音声がすべて中国語という動画を毎日視聴してください。
何を言っているかわからないことが多いでしょうから字幕があるものでかまいません。
HSKのリスニング問題は口語的であり、スピードも通常中国人が話す速度です。
本番前にそれに慣れておくのも、5級や6級の試験に挑む前にやっておくべきことです。
第二部分 会話の内容に関する問題
音声部分
2人の会話とその内容に関する複数の問いが放送されますので、問いの答えとして正しいものを4つの選択肢の中から選んでください。(16-30)
「第 16-30 题:请选出正确答案(第16-30問:正しい答えを選んでください)」と放送された後に会話が始まります。
第 16 到20 题是根据下面一段采访:
女:朋友们好。现在人们对自己的健康可是越来越关注,连洗脚都越来越有讲究。洗脚是已经“老土”的说法了,时髦的叫法是“足浴”或者“足疗”。专门通过足浴来为顾客提供保健服务的足浴店也像雨后春笋一样,出现在城市的大街小巷。“千子莲足浴”就是这“洗脚大军”中很抢眼
的一员,它颇有传奇色彩,因为它的创始者是几个复旦大学毕业的高才生。今天我们就请到了创始人之一徐先生。徐先生您好。从名牌大学的高才生到“洗脚工”,您能接受这种身份的转变吗?
男:我从来也没有觉得自己是个“洗脚工”。我给自己的定位是一个现代企业的管理者,和那些大企业的管理者是一样的,只不过我们经营的是足浴服务。再说了,“洗脚工”也没有什么丢人的,谈不上能不能接受的问题。
女:您认为“千子莲”吸引大量顾客的关键是什么呢?
男:放松的感觉。我们的顾客中大部分都是商务人士,平时职场上太累,到了“千子莲”他们可以放松下来,这种放松是身体和心理上双重的。
女:我觉得“千子莲”这个名字很特别,它是怎么来的呢?
男:这个名字的灵感来源于敦煌壁画。我曾经到过敦煌,受到了很深的震撼。在敦煌莫高窟第五窟的壁画上,有鹿女生下莲花、变成一千子孙的典故,我把这“莲花、千子”结合在一起,就得到了“千子莲”这个名字。我对这个名字很得意,国内大部分连锁品牌的名字取得都很西化,只有我们的名字最中国化。
女:我觉得“千子莲”明亮的店堂和我们传统理解中的足浴店有点不相符。
男:是的。在中国人看来,让别人给自己洗脚是一件有些尴尬的事情。我就是想把这种尴尬的事儿变成时尚。其实洗脚和理发没有什么本质的区别,没有什么难为情的。我们的店都有统一的装修风格和管理模式,迎接顾客该说什么话、多长时间端上热水都是有统一标准的。而且,我们这里的每一位服务人员都有国家颁发的“足部按摩师”证书。
ご覧のとおり、第二部分の問題は第一部分よりぐっと長くなります。
解答用紙の問題部分
この第二部分の最初の会話文が読まれる前に「第16到20题是根据下面一段采访」と選択肢の範囲がアナウンスされます。
その範囲の選択肢を確認してから会話文を聴いた方がいいのは第一部分と同じですが、指定された範囲は聞き逃さないようにしてください。
解答用紙にその範囲を〇で囲み、その〇で囲んだ選択肢を見ながら会話の音声を聞くのも一つの手段です。
最初の会話文の設問は第16から20問ですね。
選択肢は以下のとおりです。
- 16.A 老师、B 大学生、C 企业家、D 艺术家
- 17.A 理发、B 足疗、C 美容、D 健身
- 18.A 没什么抱负、B 有时会很尴尬、C 接受了身份转变、D 是一个企业管理者
- 19.A 壁画、B 植物、C 动物、D 小说
- 20.A 还没有连锁店、B 服务人员都有证书、C 顾客对店名不满意、D 顾客都是商务人士
言うは易し、行うは難し。
たしかにリスニング問題の音声が流れる前に選択肢を確認するのは困難です。
しかし、どんな会話文や問いなのか事前にわからない以上、わずかなヒントもモノにしましょう。
なお、以降の会話文も同じです。
傾向と対策
この第二部分も音声が流れる前に問題用紙の選択肢を確認するべきなのは言うまでもありませんが、
何問目までがその会話文の設問の範囲なのかアナウンスされるのを聞き逃さないようにしてください。
そして、音声で流れる会話文は文章で見ても長く、難解です。
これを音声だけで内容を理解するのは至難の業ですから、会話文の内容についてメモをとることは必須です。
音声を聞きながらメモをとる訓練を本番前には行ってください。
一口にメモと言っても、何を言っているかわからない場合があります。
例えば前述の会話文の中で出てきた「洗脚」を音声だけを頼りにして、それが足を洗う「洗脚」だと瞬時に判断できないでしょう。
さらに次に「足浴」「足疗」と来たらいったい何を言っているのか混乱してしまいます。
そういう場合は「xijiao」でも「シージャオ」でもいいから、音声だけではわからない単語の音声を文字化してみましょう。
会話文が進むうち聞き取れる語彙を脳内で組み合わせていくと、それが何を指すのかわかってくる確率が高くなります。
一瞬で何を指すかわからない単語こそがキーワードである場合が多いのです。
それを書き留めることによって、解明される可能性は向上すると思います。
とにかく、6級に限らず5級からは絶対に耳だけを頼りに解答しようとしてはいけません。
第三部分 長文の内容に関する問題
音声部分
まとまった長さの問題文と、その内容に関する複数の問いが放送されますので、問いの答えとして正しいものを4つの選択肢から選んでください。(31-50)
「第 31 到50 题,请选出正确答案。现在开始第31 到33 题:(第31から50問、正しい答えを選んでください。今から第31から33問までを始めます)」と放送された後に問題文が始まります。
第 31 到33 题是根据下面一段话:
古时候,有个商人献给国王三个外表一模一样的金人,同时出了一道题目:这三个金人哪个最有价值?国王想了许多办法,请来珠宝匠检查,称重量,看做工,都是一模一样的。怎么办?最后,有一位老大臣说他有办法。他拿了三根稻草,把第一根插入第一个金人的耳朵里,稻草从另一个耳朵出来了。第二个金人的稻草从嘴巴里掉了出来。而第三个金人,稻草进去后掉进了肚子里,什么响动也没有。老臣说:“第三个金人最有价值。”商人说答案正确。这个故事告诉我们,最有价值的人,不一定是最能说的人。老天给我们两只耳朵一个嘴巴,本来就是让我们多听少说的。善于倾听,才是成熟的人最基本的素质。
31.“金人”问题是谁解决的?
32.问题是怎么解决的?
33.这段话主要想告诉我们什么?
上が実際の音声です。
御覧のとおり、これもそこそこの長文ですし、厄介なことにこれが一回しか読まれません。
質問は問題文が読まれた後ですので、事前にはわかりません。
解答用紙の問題部分
第31から33問の選択肢は以下のとおりです。
- 31.A 国王、B 商人、C 大臣、D 珠宝匠
- 32.A 称重量、B 用稻草、C 检查质量、D 凭经验判断
- 33.A 要有眼光、B 要多听少说、C 不可轻信别人、D 不可盲目乐观
第二部分と同じく第一の長文が読まれる前に「第 31 到 33 题是根据下面一段话」と選択肢の範囲がアナウンスされますので、
それは聞き逃さないようにしてください。
以降も同じです。
傾向と対策
これも第二部分と同じです。
問題文が読まれる前に問題用紙の選択肢を確認するのは言うまでもなく
聞き取れなくて何を指すのかわからないワードが出たら、とりあえずキーワードである確率が高いのでピンインでもカタカナでもいいからメモしましょう。
もっとも、長文が読まれるわずかの間に問題用紙の選択肢をさっと見て何を話すかのアタリをつけ、
音声に合わせてメモをとりながら内容を把握するのは簡単でないことはわかります。
しかし、何の予備知識もメモもなしに頭だけでこれだけの長文を一回だけで頭に入れるのは通訳者であっても難しいことなのです。
本稿の筆者は通訳者でもありますが、少なくともメモは取りますし、事前にどんな内容の話をするかもわからない話は通訳できません。
そして、メモの効果的な書き方も瞬時に選択肢を確認するのも、すぐには習得できないものです。
それもHSKのリスニング学習の一環として、過去問を解いてみる際に工夫しながら練習することをお勧めします。
以上の問題は中国のHSK公式ホームページの汉语考试服务网からダウンロード出来ます。一度チャレンジして、どんな問題なのかチェックしてみてください。
編集後記
HSK6級はHSKの最高級。
これを取得すれば、中国語の黒帯です。
ですから本稿では、中国語を母国語とせず、中国を習い始めて1年以上で、HSKはじめ他の中国語関連の検定試験で中級以上を保持している方を対象にアドバイスをさせていただきました。
中には中国語を始めて1年未満でHSK6級を取ってしまう方もいますが、そんな人は百人に一人もいないでしょう。
少なくとも私はそうではありませんでしたし、会ったこともありません。
私はそんな天才以外の99%以上の方々に、無責任なことは言えないのです。
しかし、これだけは胸を張って断言できます。
語学は努力している人を決して裏切らない学問です。
地道に学習に取り組み、定期的に試験を受け続けてステップアップを続ける方ならば必ず6級くらいは受かります。
そして中国語学習は6級を取得したら終わりではありません。
中国語の語彙は5000語どころではないのです。
それ以後は中国語(普通話)を話す中国人となら十分コミュニケーションができるような、本物の実力をつけていきましょう。
空手や柔道で黒帯を取っても、街でチンピラにケンカで負けたら意味がないように、
HSK6級を取っても中国語を十分使うことができなければ意味がないのです。
6級を取得した後は中国語を実践で十分生かせるレベル、
いや、「日本語が分からない中国人上等」「日本人だと最後まで気づかれない」くらいのレベルの達人をぜひ目指していきましょう。
執筆者プロフィール
名古屋外国語大学外国語学部中国語学科卒。中国語検定準1級、HSK6級
2015年以来、特許および特許無効審査の翻訳、校閲を担当。中国語翻訳分野の専門は化学と電気。これまで、美術書や拘置所での書簡の翻訳も経験したこともあり、技術関連を中心に幅広い翻訳分野で対応可能な中国語翻訳者