HSK初級(1・2級)のリスニング攻略法
HSK(汉语水平考试)とは中国政府認定の中国語検定であり、
中国語以外の言語を母国語とする外国人を対象に、中国語での実際のコミュニケーション能力の測定を行うことを主眼としているために実践的な資格とされています。
そのような試験だけに、日本国内の他の中国語関連の試験、例えば中国語検定試験やTECC(中国語コミュニケーション能力検定)などに比べて、
リスニング問題はスピードも速く、口語的であったりして難解であると感じる人が多いようです。
また、HSKの級位は1級、2級、3級、4級、5級、6級の全6段階に分かれますが、どの級も問題に関する日本語の説明は一切なく、
いきなり何の予備知識もなくぶっつけ本番で受けた場合は、初っ端から何をどう解答していいのかわからず、それだけで得点を逃してしまいかねません。
一方でHSKの読解の方は中国語検定と比べて、リスニングほど難しくはない傾向があります。
よって、リスニング問題が十分できる人は読解もそれなりに解答できることが多いのです。
つまり、リスニングを制する者はHSKを制します。
そこで本稿ではHSK合格の要となるリスニング問題、それも実際に出題された問題を掲載し、どのような問題で、どう答えればよいか?を解説。
なおかつ、その解答の注意点とコツ、本番前までにやっておくべき対策と勉強法も含めて、ご紹介させていただこうと思います。
HSK初級のリスニング学習
リスニングがどうも苦手だ、という方は多いことでしょう。
文章だと簡単なのに、いざ聞き取ろうとするとどうしても難しいと皆さんおっしゃいます。
なぜなんでしょうか?
それはその発音とスピードで話せないからです。
自分がリスニングのスピーカーと同じように話せない限り、聞き取ることは不可能です。
これは中国語に限らず、どんな言語でも同じです。
そのスピーカーと同じように話せるようになるには、
「シャドウイング」という手法を使った訓練が効果的です。
皆さんが普段の学習でお使いの文法書にはテキストの中国語を読む音声が収録されたCDが付属していることと思いますが、
シャドウイングとは、そのCDの音声が言うことを同時に言うことによって、言語を文字情報ではなく音声情報として脳内に刷り込む手法です。
まずは一つの例文の意味を完全に把握してから、CDの音声に合わせて、慣れないうちは文章を見ながら発話し、最終的には音声のみでその音声と同時にその例文を言えるようになるまで行います。
スピーカーと同じ発音とスピードで話せるようになるまで何度もやってください。
紙に書きながらやるとより効果的で、そうするとその文章をより音声情報として把握しやすくなります。
むろん、最初は舌がもつれてうまくいきません。
それは普段使わない口の筋肉を使うからそうなるのです。
筋肉は使えば鍛えられるもの、何回もこなしていけば必ずスムーズに発音できるようになります。
このシャドウイングを重ねていけば、皆さんの脳内に中国語の文章が音声情報として蓄積されてネイティブの発話にすぐに反応できるようになり、HSKのリスニング問題にも十分対応できる能力が身につくはずです。
このシャドウイングは、今後より上の級を狙う上でも、中国語学習を行う上でも非常に有効な手法です。
また、本番試験の一か月前までに1級や2級のHSK公式過去問集をやりましょう。
リスニング問題をやってみて、間違えたところがあったら、その部分の問題文を解答・解説のページを参考にしてシャドウイングしてみてください。
苦手な部分は一つでも多く克服するのです。
過去問題をやることによって実際のHSKの試験の水準や流れをつかめると同時に、自分に何が足りないかを知り、何よりHSKのリスニング問題のクセもある程度無意識のうちに体感できるはずです。
リスニング問題の形式
公式的に、HSK1級は150語程度の基礎常用中国語及びそれに相応する文法知識を、
2級は300語程度の常用単語と文法知識を習得している方を対象としています。
本稿では2級の実際のリスニング問題を例にとり、その解説と対策を論じていこうと思います。
リスニング問題の始まり
まずは音楽が鳴りだし、
中国語で「皆さんこんにちはHSK2級試験にようこそ!」が三回繰り返され、
次いで、同じく中国語で「HSK2級リスニング試験は四つの部分に分かれ、計35問。これから試験を開始します」とアナウンスされます。
以降も同様にすべて中国語です。
ちなみに2級のリスニング問題の時間は約25分間で、その後に3分間の解答記入時間が設けられます
前述のとおり、問題文が一切記載されていません。
ですから最初に設問が何であるかを知っておかないと、それだけで貴重な時間を使って頭をひねってしまうことになりかねません。
以下にその設問を具体的に解説いたします。
第一部分 放送される短い文が写真と一致するかを答える
音声部分
写真を見ながら音声を聞いて、判断してください。正しい答えの後に√を書き、正しくない答えの後に×を書いてください。センテンスは二回繰り返しますので、注意してください。(1-10)
上が実際の音声です。
最初に例が出され、「我们家有三个人(私たちの家には三人いる)」「我每天坐公共汽车去上班(私は毎日バスで出勤する)」と放送されます。
それと問題の写真が合っているか否かを「√」か「×」かで答えるのです。
解答用紙の問題部分
上の例の場合、最初の「我们家有三个人(私たちの家には三人いる)」は三人の人物の写真があるので正しいことを意味する「√」です。
次の「我每天坐公共汽车去上班(私は毎日バスで出勤する)」ですが、
もう一つの写真は自転車にしか見えないので正しくないことを意味する「×」です。
もう、お分かりですね。
この要領で以下の問題を解くのです。
傾向と対策
HSK1級や2級を受験される方は中国語学習歴が1年未満の方が多いことでしょう。
そういった方の中には、たとえ短文であってもネイティブの読む中国語を「単語が部分的に聞き取れても、文章として聞き取れない」という人もいるのではないでしょうか?
しかし、ある程度中国語でどんなことを言うかの察しがついていたらどうでしょう?
何を言うかわからない場合より理解できる確率が高くなるのではないでしょうか?
この第一部分の問題用紙には写真があります。
問題はスピーカーがこの写真に関することを言っているか否かを問うものなのです。
つまり何を言ってくるかある程度アタリをつけて音声を聴くことができます。
ですから、まず発話を聴く前に写真をご覧になって、頭の中でその写真に関する中国語を思い浮かべてください。
第一問目だったら「电脑」しか浮かびませんね。
音声を聞く前に、この問題が「电脑」に関することを言うか否かではないか?と察するこ
とができるのではないでしょうか?
この第一部分に関し、解答のヒントは全て問題用紙にあり、発話を聴く前にまず問題用紙の写真を見ることを断固お勧めします。
第二部分 放送される短い会話文と一致する写真を選ぶ
音声部分
写真を見ながら会話を聞いて、会話内容と一致している写真の記号を□に書き込んでください。会話は二回繰り返しますので、注意してください。(11-20)
上が実際の音声です。
最初に例が出され、「男:你喜欢什么运动?(あなたはどんなスポーツが好きですか?)/女:我最喜欢踢足球(私はサッカーをするのが一番好きです)」という男女の会話が放送されます。
その会話と一致している写真をA、B、C、D、E、F六つの選択肢から選ぶのです。
解答用紙の問題部分
「例如」の欄の会話に一番合っているのはサッカーをやっている人の写真Dです。
ですからDが正解です。
以下も同じ要領で解答します。
先ほど例題でDが選択されたので、D以外からの選択となります。
傾向と対策
この第二部分も写真を見て答える問題ですから、解答のヒントはすでに問題用紙に出ていると言えます。
ただし、写真を見てその事物に関する中国語が何も出てこないのはいけません。
最低限の語彙は断固必要なのです。
HSK2級の範囲の単語に関しては中国の HSK公式サイトからダウンロード出来る単語リスト(新汉语水平考试(HSK)词汇)で確認できますので、試験前一か月前までには目を通しておいてください。
第三部分 放送される短い会話の内容に対する質問に答える
音声部分
会話を聞いて、A、B、C三つの選択肢から、正しい答えを選んで、質問に答えてください。会話は二回繰り返しますので、注意してください。(21-30)
上が実際の音声です。
最初に例が出され、「男:小王,这里有几个杯子,哪个是你的?(王、ここにいくつかコップがありますが、どれが君の?)/女:左边那个红色的是我的(その左の赤いのが私のです)」という男女の会話が放送されます。
次いで「小王的杯子是什么颜色的?(王のコップはどんな色か?)」と放送されますが、これこそが問題なのです。
その答えをA、B、C三つの選択肢から選ぶのです。
解答用紙の問題部分
先ほどの例では、「左边那个红色的是我的」と言っていたのでAの「红色」が正解となります。
以下も同じ要領で解答します。
傾向と対策
今度の第三部分は写真がありませんが、それぞれ三つの選択肢がヒントになります。
その問題に関する会話文が読まれる前に、第一部分や第二部分と同じく必ずその三つの選択肢が何なのかを確認してから音声を聴いてください。
21問目だったら選択肢は「牛奶」「苹果」「西瓜」の三つ。
この三つのうち一つが会話文の中に出てくるのではないか、とアタリをつけることができるはずです。
何の予備知識もなくいきなり中国語を聴いて、何を言っているか知ろうとするのはHSKのリスニングにおいて極めて危険です。
第四部分 放送されるやや長い会話文に対する質問に答える
音声部分
会話を聞いて、A、B、C三つの選択肢から、正しい答えを選んで、質問に答えてください。会話は二回繰り返しますので、注意してください。(31-35)
上が実際の音声です。
最初に例が出され、「女:请在这儿写您的名字(ここにあなたの名前を書いてください)/男:是这儿吗?(ここですか?)/女:不是,是这儿(いいえ、ここです)/男:好,谢谢(よし、ありがとう)」という男女の会話が放送されます。
今度は少々長めです。
次いで「男的要写什么?(男性が書くのは何ですか?)」と放送され、これが問題となります。
その答えをA、B、C三つの選択肢から選びます。
解答用紙の問題部分
最初に「请在这儿写您的名字」と言っているので、正解はAの「名字」ですね。
以下も同じ要領で解答します。
傾向と対策
この問題も上記三つの部分の問題と同じく、問題用紙の選択肢を見て問題が何であるかアタリをつけるのはもちろんのことですが、注意していただきたいことがあります。
それは「数量や曜日、時間などの言い方が音声情報としてしっかり頭に入っているか?」です。
数字や曜日を侮ってはいけません。
例えば33問目の発話の中の「两千多人」という部分は文章で読めば簡単に理解できますが、いざ中国語で読まれた場合に反応できるでしょうか?
「下个星期」が「次の週」だと文章ではなく中国語の音声を聴いて即座に理解できるでしょうか?
初心者のうちは意外とすぐに反応できないものなのです。
上級者であってもケタの大きな数字だったりすると聞き逃してしまうことが多いため、皆さんは数量や曜日、時間などの言い方を頭にしっかり叩き込むのはもちろん、
試験中は解答用紙に数量や曜日が何であったかメモをとるようにしてください。
以上の問題は中国のHSK公式ホームページの汉语考试服务网からダウンロード出来ます。一度チャレンジして、どんな問題なのかチェックしてみてください。
編集後記
語学の検定試験はしょっちゅうあるわけではありません。
少なくない受験料を払って、休日の時間を割いて受験しなければなりません。
よって、「落ちたらどうしようか?」という不安も当然頭をよぎることでしょう。
しかしその不安と緊張感があってこそ、検定試験を受ける意味があるのです。
試験前のそういう心理状態は、学習において普段と違う集中力を発揮します。
そして、その試験までの学習の期間での進歩も格段に違います。
語学の向上に検定試験は必須なのです。
今回首尾よく合格してもまだ先はあります。
まだまだ上の級はあるし、語学の学習に終わりはありません。
ぜひさらに上を目指し、さらなる高みへの進歩に向けて加速しましょう。
執筆者プロフィール
名古屋外国語大学外国語学部中国語学科卒。中国語検定準1級、HSK6級
2015年以来、特許および特許無効審査の翻訳、校閲を担当。中国語翻訳分野の専門は化学と電気。これまで、美術書や拘置所での書簡の翻訳も経験したこともあり、技術関連を中心に幅広い翻訳分野で対応可能な中国語翻訳者